ここは、第三新東京市にある、厳重にセキュリティシステムが掛けられたとある高級マンションの一室。
現在、このマンションの○○○号室では、ミサト、シンジ、アスカ、ペンペンの三人と一匹による共同生活が行われている。
彼らは、特殊機関NERFの一員として、日々使徒を殲滅する為に戦っているが、その成果と疲労を考慮し、今日・明日と二日間、特別休暇が与えられた。

「シンちゃ〜ん、アスカぁ、チョッチ大事な話があるんだけどぉ♪」

笑顔なミサトの問いかけに対し、あからさまに嫌な表情をする二人。
ミサトの”大事な話”は、経験上ロクな事にならないケースが多いのだ。

「何よ二人して〜。別に悪い事じゃないわよ」

「……はぁ」

二人してため息をつく。
アスカは、さっさとくだらない話しを終えてTVでも見たいという感じだ。

「何よミサト。毎日毎日、つまらない学校やエヴァの操縦で疲れてるんだから、たまの休みぐらいゆっくりさせてよ。」

「いつもお疲れ様、二人とも。今日はゆっくり休んでね」

内心安堵するシンジ。今日はゆっくり休んで、と言う事は自分達が何かするという訳では無い様だ。

「で、本題なんだけど……今日、私外出してそのまま泊まるから」

シンジ・アスカ「………えっ?!」

同時に感嘆の声をあげる二人。
一瞬、予想外のミサトの言葉にシンジは理解が遅れた。だが、シンジが脳内でその意味を理解するより早く、即座にアスカがミサトに噛み付いた。

「Ha!?It's japanese joke? 何考えてるのよ!齢1○歳、可愛く可憐でビミョーな時期の女の子が、野蛮で変態でキス魔(未遂)のシンジと二人っきりで一夜を過ごすって!?」

「そうよ♪ 良かったわねシンちゃん」

「ミ、ミサトさん、僕は別に!」

顔を赤らめるシンジ。

「……何、また、イヤらしい事でも考えてたの?……サイテイね」

目を細め、珍獣でも見るかの眼差しでシンジを見るアスカ。

「別にそんなつもりじゃないよ!それに、前のはアスカが寝言で!」

「はいはい、夫婦喧嘩は後でやってね」

「誰が夫婦だ(です)って!?」

シンクロする二人の声。

「はいはい……」

普段喧嘩ばかりなのに、こういう時ばかり、息が合うことに苦笑いをするミサト。

「(まぁ、これだったら問題無いかしらねぇ。他の男の子ならともかく、シンちゃんだし)」

一人、何かに納得するミサト。

「……ハァ、正直納得は行かないけど、たまにはミサトの顔を立ててあげるわ。Hな事したら殺すわよ」

「……まだ殺されたくないからね(ボソッ」

「……何か言った?……まぁ、いいわ。で、ミサトは何処に行くの?」

「え、えっと、伊豆までチョッチね。緊急事態の事も考えないと行けないし、そんなに遠くまでは行かないわよ」

「……加持さんと?」

「……(ギクッ!)」

あからさまに動揺するミサト。これでは、疑ってくれと言っているようなものだ。

「!! 冗談のつもりだったのに、まさか本当に加持さんと一緒なの!?」

「や、やぁねぇ。あんなのと一緒に行く訳無いでしょ?!リ、リツコとよ。」

「え?リツコさんは、休みじゃなかった様な……」

シンジのツッコミに、ミサトが「しまった」という様な表情を浮かべる。
というより、口で「しまった」と言っている

「あ、もう電車の時間が!!そ、そういう事だから行ってきます!食事はコンビニで何か買って食べてね!じゃ」

これ以上、ボロを出さないようにといった感じでミサトは家を飛び出していった。

「ぁゃιぃ……」

残った二人は腑に落ちない表情を浮かべる。

「はぁ」

二人っきりになったと同時に、ため息をつく二人。
もちろん、今までも二人っきりになるケースは頻繁にあったが、夜二人っきりというのは第7使徒・イスラフェルを倒す為のシンクロ特訓以来の事だ。
イスラフェル戦後、アスカがカマをかけて、シンジがキス未遂をした事が発覚。その事を思い出し、シンジは気まずい思いをしていた。

・・・・・・・・・。
・・・・・・。
・・・。

気まずい沈黙が続く中、不意にアスカが立ち上がる。

「アスカ?」

「なによ」

それだけで人を殺せそうな鋭い眼光で、アスカはシンジを睨みつける。

「い、いや、どこにいくのかな〜?って・・・」

なんとなく目をそらしてしまう。

「気分転換にシャワー浴びてくるのよ!いい?覗いたりしたら、死ぬ程度じゃすまないからねっ!!」

びしっ!とシンジの鼻先に指を突きつけてから、アスカは風呂場へと向かう。

「あ、アスカ!」

「うるさ〜い!!何も考えたくないんだから、話しかけないでよ!」

「でも、まだペンペンが・・・」

「きゃっ!?」

「くわぁ〜!!」


アスカがシャワーを浴びている間に、シンジは自室にもどっていた。

「はぁ〜。」

大きなため息を一つ。

ベッドに腰を掛けて、CDでも聞こうかと、プレイヤーに手を伸ばして。

やめた。

理由は良くわからない。なんとなく、としかいいようがなかった。

代わりに部屋の墨に目をやる。

そこには、ミサトの勘違いの産物が鎮座していた。

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜以下回想 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

『シ〜ンちゃん』

『はい?』

『なによ!面白くないわね〜。そこは、「みさえ〜どうした?」くらい言ってくれなきゃ!』

『何の話ですか?しかも、ミサエって、名前も違うし・・・』

『知らない?コレもジェネレーションギャップって奴かしら・・・っ!?ショック〜〜』

なぜか勝手にショックを受けるミサト。その後も頭を抱えながら、一人でぶつぶつと言い続けている。

『で、何のようだったんですか?』

半ばあきれたような声を出して、シンジは用件を切り出した。

『ん?あぁ、そうそう!シンちゃんって、確か楽器できるのよね?』

『えぇ、まぁ。』

『そんなシンちゃんにミサトさんからプレゼントがありま〜すっ。』

はいこれ!と勢いよく渡されたのは、ハードケースに入った楽器、ギターだった。

『さぁ、コレで私を思う存分癒しなさい!』

胸を張って癒せ、というのもどうかと思うが、それ以前の大問題があった。

『無理です。』

シンジはきっぱりと告げた。

『えぇ〜?何でよ!ケチケチしないでさ、ど〜んと!』

『け、ケチケチしてるわけじゃないですよ。ただ、僕ギター弾けませんし』

『は?』

『だから、僕はギターは弾けません。弾けるのはバイオリンですよ。』

『それ、弾けないの?』

『はい。あ、確か青葉さんは弾けるんですよね?』

『あぁ、確かNERFにまで持ち込んでたわね、アイツ・・・。それは置いといて、じゃあ、コレ無駄?』

『少なくとも。僕には無理です。』

『お金の無駄!?』

『ま、まぁ・・・。そうだ!ミサトさんが練習してみるっていうのはどうですか?』

ぽん、と手を打って、苦し紛れな提案をした。結果は見えていたけど・・・。

『私がそんなめんどくさいこと、するわけないでしょう!?』

『いや、そんな逆切れされても・・・。』

『よし、シンちゃん!!』

ミサトがこういう目をしたときは危険である。大概無理難題や、面倒くさいことを押し付けられるのだ。

『このギター、弾けるようになりなさい!!そして私を癒すのよっ!!』

『えぇ〜っ!』

『コレは、シンちゃんの上司として命令するわ!葛城三佐としてよ!!』

『そんなぁ〜!!』

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜回想終わり〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

「はぁ・・・」

ため息をつきながらも、ギターと練習本を手に取る。

「え〜と・・・。ナンだろう、コード・・・。ABCがドレミファソラシドに対応してて・・・」

そういうところは、ギターもバイオリンも変わらない。

「TAB譜が載ってるから、これ通りに弾けば・・・」

びよ〜〜〜ん。

深いな音がでた。

「あ、あれ?おかしいな・・・。ちゃんと押さえられてない。」

そのあとも、ぼんぼんと不協和音をかなでる。

「う、腕がつりそう・・・。」

一旦ギターを脇に置き、腕の筋肉をほぐす。勝手が違うと、使う筋肉も違う、早くも慣れない筋肉は悲鳴を上げていた。

「な〜に耳障りな音をたててるのよ!バカシンジ!!」

タダでさえいらいらしてるのに!といいながら、部屋へと入り、ギターを手に取る。

「なによ、チューニングも出来てないじゃない!あんたばか〜?こんなんじゃいい音もならないわよ!」

そういって器用にに弦を調節していく。

じゃんっ!
 
一つかき鳴らすと、今までと同じ楽器とは思えないようなすんだ音色が聞こえてきた。

「中古の割にはいい音するじゃない」

少し機嫌も良くなったようだ。

「で、これどうしたの?」

ギターをシンジに手渡しながらたずねる。シンジは、ことのあらましをアスカに説明した。

アスカはあきれたように頭に手をあてながら、

「ミサトらしいわ・・・」

とつぶやいた。

「だから、なるべく早くコレを弾けるようにならないといけないんだ。」

そういって、シンジはまた、ギターと格闘を始めたのである。

びよ〜んぼよ〜ん。

最初は黙ってみていたアスカも、だんだんとイライラしてくる。

「あぁ〜!もうっ!見てられない、もとい聞いてられないわ!!このアスカ様が直々に教えてあげるから、覚悟しなさい!」

「アスカ、ギター弾けたの?」

「ちょっと前に、加持さんに手取り足取り教えてもらったのよ!それを、今日はミサトのやつ・・・」

「どうどう・・・」

「私は牛じゃないわよ!!いいわ。シンジ、今日中にチェリーを弾けるようにしてあげるから、見てなさい!!」

「えぇ〜?!い、いいよ、僕は、自分ペースでゆっくりやるから!」

「そんな悠長なことを言ってる暇はないの!」

こうして、二人きりの夜の、ギター練習は始まったのだった。



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