夏祭り





 夏には七夕のお祭りが少し有名で、観光客の所為で人口密度が少し高くなる、そんな高齢化と少子化と過疎化が進む、小さな島。
 それが僕と君が幼い頃から暮らしてきた場所。

 今までも一緒だったし、これからもそうだと信じて疑わなかった。実際、同じ年の子供が僕らを含めても七人しかいない島にあって、隣同士に家があった僕ら が兄妹(きょうだい)同然に育ったのは当たり前なのだけど。

 あのとき、僕にほんの少しの勇気があったなら・・・。

 夏祭りに始まった恋は、
 夏祭りの夜に、終わりを告げたのだ。

 海から伝わって来る、独特の島風が、夏の訪れを告げる。
  −もうすぐ夏祭りかー
 君がこの町を離れてから、何度目の夏になるだろう。まるで、七夕伝説の織姫と彦星のように七月七日にしか逢えない二人。
 今まではいつも二人一緒だったのに。

「わたし、東京に行くの」
 彼女の口から出た言葉。
 以前から、親や、彼女の両親から聞いていた話だが、君が僕に言ってくれたのは初めてだった。
 彼女には捨てられない夢があって、その夢に向かって邁進する君は、いつしか僕の夢になっていた。
 僕には出来ない事を、その真っ直ぐな瞳で目指す君を誇りに思っていた。

 だから君が「東京に行く」といったときも、一抹の寂しさはあったものの、それを上回る期待が胸を占めていた。
 その前に僕は、一言君に「好きだ」と言いたかった。
 兄妹さながらに育ってきた二人の関係を次の段階へ進ませるために。

 でも言えなかった。「今まで一緒だった」という現実が、「これからも一緒だ」という理想の未来をかってに作り上げてしまったのだ。
 
 この町の景色は変わらない。けど君はどんどん変わっていく。もう、僕の知っている君では無いのかも知れない。

 一夜だけの夏祭り。急ぎ足の胸を抑えつつ君が待つ場所へと駆けていく。
 遠くに人影が見える。
 胸が高鳴る。
 近づいているはずなのに、その姿は輪郭を失っていく。
 やっと会えたのに、涙がとまらない。こんな近くに君がいるのに、ナゼ・・・?
 「何でないてるの?」
 震える声が聞こえる。
「そういう君こそ。」
 胸を割かんばかりの君への想いは、空に咲く花火と共に夜空に舞い上がった。

 短冊に願いをつるし、想い出の丘へと歩く二人。
「何をお願いしたの?」
「秘密。」
「教えてよ、いじわる〜」
 他愛も無い会話。
 ただ、今年こそこの気持ちを伝えようとタイミングを計りながら。
「あの・・・」
「ねぇ・・・」
 二人して顔を見合わせていた。様子がおかしいと思ったら、彼女も僕に言いたい事があったらしい。
「君から言って」
「うん・・・」
 言いずらそうにもじもじしている。
 心臓が痛いほど高鳴る。彼女も、僕と同じ気持ちのはずだ。頭の中でそう言い聞かせても、心のどこかで何か「違う!」と叫んでいる。
 
ー広がる不安ー

「私ね、結婚するかも」
 時が止まる。
「え?」
 何も視えない。
 何も考えられない。
 頭が真っ白になる。
「就職先の先輩が、結婚しないかって。
 あ、まだ返事はして無いんだけど」
「はは、そうなんだ・・・。」
 言葉を絞り出す。
「アナタは何を言おうとしたの?」 
 眼を瞑る。
 心を殺す。
「君に、頑張ってほしかったんだ。
 僕にとっては、君の進む道こそが夢だから」
(嘘だっ!!)
「そう、なの」
 沈黙。
 もう明日には、彼女は帰ってしまう。
 だから、さいごに・・・!
「君は今、幸せかい?」
 僕はバカだ。
「えぇ、幸せよ。だって、結婚するんだもん」
「そっか」
 空気が重い。
「止めないの?」
「・・・ ・・・。」
「アナタが私のこと好きなの知ってる!!
 それに、私だって、アナタのこと・・・っ!!」
 いつの間にか彼女は泣いていた。
「幸せって言ったから」
「え?」
「さっき君が、少しでも戸惑ったら、全力で引き止めたのに。
 それに、僕といたら、君は夢をあきらめなきゃいけなくなるから」
「!っ・・・ぅ・・。ひっく。」
「僕が短冊になんてお願い事したか、教えてあげる
 『君が幸せになれますように』だよ。
 もう、かなっちゃった・・・」
 僕も泣いていた。笑っていたかったのに。

 最初で最後のきすをして、
 僕と君のサヨナラのデートは終わった。
 −明日、君はいないー

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