不意にダイスは目を覚ました。

「ここは・・・?」
見慣れた天井、差し込む朝日。
「オイラの部屋?」

ダイスは寝たときとは逆回しをするように、勢いよく起き上がった。
いや、この世界での彼の名は

宮里 大介(みやざと だいすけ)だ。

「なんで?ミルは?あの世界は!?」
全部、夢・・・?

しかし、夢とは思えないほどの現実感。
草花の匂いも、町の雑踏も、ローズの武具屋もすべて覚えている。

もちろん、ミルフィーユのことも。

混乱するばかりで、少しも自体が把握できないが、とりあえず、自分の部屋に戻ってきたらしい。
「き、今日はなんにちだ?」
TVをつけて日付と時刻と確認する。
丁度よく、TVでそれを流していた。
『6月11日、6時半を回りました。今日の天気予報をお伝えします』
 
「変わらない・・・」
もしかしたら、昨日一日が丸々なくなっているのでは・・・。とも思ったが、そんな不思議なこともない。
普通に、いつもどおりの日常だ。
「・・・。やっぱり、夢だったのか?」

今日も学校に行かなくてはならない。
しかし、いつも部屋を出るのは8時過ぎ。
まだ時間はある。

もう1度寝ようかとも思ったが、結局は、眠れなかった。


ふと、気がつくと、気になる気配が町の中にある。
「これって・・・?」


まるで、夢の続きのような感覚。
体中に湧き上がる、信じられない力。
研ぎ澄まされた、五感。

そして、人智を超えた能力が、町のどこかにいる、異形を見つけ出す。

(このかんじは・・・)

1も2もなく、大介は、家を飛び出した。

人目につかないような、裏路地で、何かにおびえる様に叫ぶ野良犬たち。
いくら、この町が都会ではないとはいえ、保健所がしっかり機能している今、近くに山でもない限り、野良犬がここまで繁殖することはない。

そう。
ここにいるのは、ただの野良犬ではない。
強力な牙と、爪。
人間の動体視力など、ことごとく突破する、強靭な脚。
絶妙なチームワークと、野性の本能で、敵を確実に追い詰める、狩猟能力。

そう、大介が、夢の中で戦った、『ストロベリー・ハウンド』が、なぜか、大介の住む、現実世界へと、やってきていたのだ。

「なんで、こいつらが?」

ストロベリーハウンドも、少なからず動揺している様で、おびえたような声で、鳴いている。
しかし、大介の声に気がつくと、いきなり、うなり声を上げた。

「!!またやるのか!?」

町中で、再びであった、自分たちを殺した相手。
ストロベリーハウンドは、恐れと、混乱した頭で、それでも、大介に飛び掛る。

「・・・。もう、やめようよ」
そういっても、言葉の通じる相手でないのは確か。
でも、それでも、生き物を殺すのは忍びなかった。

夢の世界なら、まだ割り切れた。
コレは、夢だと。

しかし、現実の世界で生き物を殺すのは、また別。
今までの世界が変わってしまう。
今まで学んできたマナーやモラル、常識、そういったものが全部覆されてしまうようで、怖かった。

「がぁっ!!」
死が、目の前に迫る。
心は暗い。それでも、大介の体は生きることを選んだ。


「はぁ、はぁ、・・・っ!」
息を整える。
そして、自分の犯した罪を振り返る。

保健所にでも連絡したほうが良かったのか?
今からでも、遅くはない。
どの道、この死体を放置すれば、誰かの目に留まり、警察や保健所が動くことになるだろう。

肩越しに振り返った、大介の目に映ったのは、またも信じられない光景だった。

「消えていく・・・」

まるで、元から、そこには何もなかったかのように。
血も、肉片も、塵一つ残さず、死体は、煙のように消えてしまった。

「何で・・・?」


つづく


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