それから、数日がすぎた頃。
私はまだ心の中にもやもやを抱えていた。
もちろん。梓のことで。

高校ではうまくやってる。
体育の授業でなかよくなった、吉岡さんとか。
よく笑う大原さんとか。
図書室で知り合った各田さんに、美好さん。
ゲームが好きな、中川さん。

皆、梓に負けないくらい大切な友達なのに、なんで梓だけがこんなにも心に引っかかるんだろう・・・。

「よし・・・っ!」
普段なら、自分から誰かに連絡することなんてめったにないんだけど、今日は違った。
どうしても、梓と話さないといけない気がしたんだっ!!


RRRRR
RRRRR
・・・・・。
『もしもし?』
「あ、あずさ・・・?」
声が震える。何でこんなに緊張してるんだろう・・・。
『珍しいね!由貴から電話くれるなんて』
梓は私が自分から連絡しないのをよく知っている。

「なんとなく、ね。この前、ゆっくり話せなかったし」
『そっか!ありがとう!』
本当に嬉しそうに笑ってくれる梓。

「そういえば、前に電話した時に、ライブに誘ってもらったんだけど、まだ返事をしてないな、と思って・・・」
『そういえばそうだったね!・・・。で、どう?こられそう?』
「もちろん行くよ!」
『本当!?良かった〜』

それからは本当に他愛のない話。
それでも、やはり楽しそうに軽音部の話をする梓の声を聞くたびに、チクリチクリと胸が痛む。
つまらない嫉妬。自分でもわかってるんだ。
自己嫌悪と、その嫉妬に流されそうになる自分が嫌になる。
どうすればいいんだろう。
『そのライブの時は、是非友達も連れてきてね!』
友達・・・。
そうか、友達か・・・。
「わかった!皆で行くね!」
なんとなく、わかってしまった気がする。
この胸の痛みは、きっと嫉妬だけじゃなかったんだ。
今はまだ予想でしかないけど、梓のライブを見れば、確信に変わると、なぜか理解できた。

そして、梓のライブ当日。
私はいつものメンバーと一緒に、梓の通う、桜高校に来ていた。
「ここが、梓の通う高校・・・」

「ゆき!軽音部のライブは体育館だって!」
パンフレットを見ながら、各田さんが私に話しかけてくる。
「ほんとだ・・・」
写真とか付いて、まるでプロのアーティストみたい。
また、胸がチクリと痛む。
普段は気にも留めない小さなとげが、何かに擦れて、傷む感じ。


「ちょっと、美好、なに持ってきたの!?」
「え?オ○マ大統領のマスクだけど」
「それで何する気よっ」
「体育館の舞台にでも乗り込もうかと・・・」
「ふざけるなっ!!」
「あはははっ!」
いつも変なことして私たちを笑わせたり、困らせたりする美好。
それを止める各田さんと中川さん。
そんなコントみたいなやり取りをみて、笑う大原さんと吉岡さん。

うん、いつもどおりの私たち。
私の自慢の友達。
梓が自慢する、先輩たちにだって、負けないくらい大好きなともだち。

デモナニガヒッカカルンダロウ・・・。

「ゆき、大丈夫?なんか、考え事?」
「大原さん・・・。うんん。なんでもない!」

いつの間にか、目の前には、体育館。
大きな扉を開けて中に入ると、そこは真っ暗だった。

『次は、軽音部による、演奏です。宜しくお願いします』

明るくなった舞台上。
そこには、大きなドラムセットと、きらきらと宝石みたいに輝く楽器を持った女の子たちがいた。
キラキラ、きらきらと。

ライトのせいなのはわかっているけど、それでも私には、輝いているのは、彼女たち自身に見えた。

そして、その中でも、一際背の低い女の子。
梓。
私の友達。

『私たち放課後ティータイムは・・・』
ギターを持った女の子がMCをしている。
すごく、まっすぐな瞳で。

ウラヤマシイ・・・

何が?
あそこにいる人たちが中が良いから?
私たちだって、負けないくらい、中はいい。ハズ。

梓と一緒にいる、あの人たちがうらやましい?
多少のやきもちはあるけど、それも正解じゃない。

『さっさとはじめんかいっ!!』
「あははは!」
「面白いねぇっ!」
MCの子が、あまりにも長々話して、演奏が始まらないので、ドラムの子がスティックを投げたみたい。
慌てて拾いに行ってる。

『気を取り直して、聞いてください!「LISTEN!」っ!!』


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