こんな出会いがあるなんて、夢に思っていなかった。

私とギターの出会い。

確かに歌うのは好きだった。
でも、それもカラオケに行く程度。
自分が楽器を演奏するなんて、考えたこともなかった。
今通っている高校だって、音楽と美術を選択できるけど、美術を選択しちゃったし。

そんな私が今、ギターを始めている。
あんな風にうまくなんて出来なくても、精一杯のメロディーを奏でてる。

あの出会いがあったから。


きっかけは、そう、友達の学校の学園祭に行ったときのこと・・・。



私の名前は、紀伊国 由貴(きいくに ゆき)
どこにでもいる、普通の女子高生。
この間までは中学生だったけど。

仲の良かった友達とも離れ、家からさほど遠くない高校に通っている。
まぁ、もっとも、そこしかいける高校がなかった、ということもあるのだけれど・・・。

新しい友達も出来たし、それなりに楽しい高校生活をおくっていたんだ。
そんなときに、中学時代の友人から、久しぶりに電話がかかってきた。
進学を機に疎遠になってしまった、中学時代の友人。

登録された名前は「中野 梓」

私は、恐る恐る電話に出てみる。
中学時代はよく話したし、一緒に出かけたりしていたけど、高校に入ってからは、会う機会もなくなり、なんとなく気まずい感じ。

でも、特にケンカしたわけでもないし、なにを臆してるんだろう。
変な私。

通話ボタンを押して、携帯を耳に当てる。

「もしもし・・・?」
『もしもし?由貴?久しぶり!』

懐かしい梓の声。
変なの!今年の春まではよく聞いていた声なのに、すごい長い間聞いていなかった気がする。

「高校はどう?」
「新しいともだちできた?」
『この間ね!』

他愛もない話は、どんどん続いていく。
最初の気まずさなんか、もう少しもない。
時間とか、携帯の通話料なんか頭から完全に消えていた。

『そうそう、今度、うちの学校で、文化祭があるんだけど、由貴に絶対にきてほしいの!』
「文化祭?」
『そう!わたし、高校に入って、軽音部に入ったんだ!それでね、今度の文化祭の時に、ライブをやるの!』
「へぇ〜」
そういえば、梓のご両親は、何かの楽器をやっていて、梓自身も、その影響でギターをやっている、と聞いたことがあった。

ライブなんて、見に行ったことないし、梓が演奏するなら、行って見ようかな・・・・?

『それでね、軽音部のベースの、秋山澪先輩が・・・』

梓の話は、いつの間にか軽音部での楽しい思い出に移っていってる。
まだ、行くとか行かないとか、返事もしてないんだけどな。

『唯先輩はまじめに練習してくれないし、律先輩は適当だし!』
口ではそういっていても、本当はすごく楽しいのが伝わってくる。
少し、やきもち。
それでも楽しそうに話し続ける梓を、制して、私は強引に電話を切る。
「もうこんな時間!ゴメン梓、明日朝早いんだ!
また連絡するね!」
『あ、そうなんだ。遅くまで、ごめんね
また連絡するから』
電話を切って、後悔をする。
なにやってるんだろう、わたし。

梓とは別の学校行って、それぞれ新しい友達とか出来て。
仲良く楽しくやってるのが当たり前なのに。
それで私たちの仲が悪くなったり、会えなくなったりするわけじゃないのに。

梓が楽しそうに、軽音部でのことを話しているだけで、やきもちを焼くなんて、どうかしてる。
それだけじゃなくて、あんな態度取るなんて・・・。

もう一度梓に掛けなおそうかと思ったけど、その日はふて腐れるように、布団に包まって寝てしまった。


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